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自治体の危機管理を向上させる首長としての留意点~10のチェック・ポイント~

<はじめに>
何人かの自治体首長から自治体での各種危機への対応能力を向上させるための実行可能な具体的なアドバイスが欲しいとのリクエストをいただいた。本稿は本研究員の川崎市、鎌ヶ谷市、立川市などでのアドバイス経験から重要と考えているポイントを紹介してみたい。先ず実行すべきは、首長を始め幹部職員が具体的な自治体の状況を考えいざという場合の対応で疑問点をぶつけ合い、お互いに確認すべきことを確認し、改善・対応できることは早急に改善・対応するという真剣にして率直な取組をすることである。
どこかに自治体の危機対応で専門家がいて、その専門家に任せておけば大丈夫だなどという安易な錯覚をしないこと。部下職員に任せられるほど危機管理は簡単なものではない。専門家はどこにもいない。当該自治体の危機管理は職員一人ひとり、「自分が対応するしかいない」という認識に立つことから始まる。危機管理は誰にも任せられないということ。安全安心は究極的には一人ひとりの自己責任。自治体で言えば、その任についている当該担当者を除いて、真の専門家はいないということだ。
首長に代わって首長の任務を勤める職員もいない。首長は自治体の危機管理能力を向上させるべく、部下にあらゆる疑問点をぶつけて鍛え上げなければならない。その際、一切の遠慮は不要だ。言うまでもなく、常に、自らの危機管理能力の向上を図ることは当然の前提だ。
1 住民の安全安心の確保は「自治体全職員の本来業務」との認識を確認
  いまさらとは思うが、自治体職員の認識を明確に覚醒させる必要がある。自治体職員の中には、従来のまま、安全安心や危機管理は警察や自衛隊などの担当職務であり、自分達の本来業務ではないといった空気が存在しているかもしれない。あるいは、自治体では消防職員の職務であり、せいぜい一般職職員は応援団だとの気持ちが強いかもしれない。
  今日では、住民の安全安心を図ることは自治体全職員の本来業務である。住民は自治体に危機に際して対応の要としての役割を期待している。自治体の全職員はその対応能力を磨いておかなければならない。首長を始め、幹部はこの職員の心構えに関して明確に語り、お互いの決意をし合うことから始めなければならない。
  第一歩は、全職員が一人ひとりの体力向上に努めることなど、家族を含め、危機管理能力を向上させるよう努力すること。職員の住宅の耐震診断を実施し、いざという時に自宅で動けなくなるようなことにならないこと。危機に際して勤務できるにはそうした自らの安全確保が大前提になる。
2 幹部職員にかかっているとの自覚
  危機管理は幹部の決断が重要な要素になる。警察や自衛隊と異なり地方自治体の職員は緊急時に即決即断することに慣れていない。私が経験した範囲からも、自治体の幹部には、自ら指揮命令することに伴いがちな責任を取るということをできれば避けたいという空気が強いように感じた。
  危機管理とはルーティーン業務とは対極にある。短時間で決断し対応しなければならない。しかも幹部果敢に決断しなければ組織的な対応は始まらない。多くはマニュアルの想定を超えた事態への対応となる。従って危機管理業務では、常に判断が求められる。判断するべき、上位者の役割が大きくなる。危機管理は幹部の仕事というゆえんだ。
  危機管理は究極的には、自治体最高責任者である首長の仕事、首長の決断力にかかっている。首長は平素から様々な危機事象を想定し、部下職員の対応力を向上させるべく最善の備えをしておくことが肝要だ。
  危機管理に関する万全の専門家などはどこにもいないのだから、疑問点は遠慮なくどんどん質問してみたらいい。「夜間の発災の場合、宿直は何人なのか?」「緊急招集に応じてどれくらいで出勤できるのか?1時間後の体制は?」「その陣容で各自の任務分担は?」「報告先は?」質問すればするほどいざという時の問題点が浮かんでくるだろう。そうする過程でいざという場合の対応力が向上して行く。
3 危機管理担当幹部の任命
様々な任務があり多忙な首長に代わって常に自治体の危機管理を任務として考えている幹部職員を任命しておくべきだ。副市長、助役など全体を掌握できる立場の職員がふさわしい。首長にとっては本当に信頼できる腹心を当てる必要がある。さらにその手足になる担当部局を設ける。多くの自治体に設けられている「危機管理室」などがそれ。
危機に関する情報の収集が最大の任務となる。ポイントは危機に関する情報を首長に速やかに報告される体制の確立。危機関連情報ではスピードが命、「第一報」「速報」を挙げるように徹底的に念押ししておく必要がある。「こんな遅い時間だから翌日出勤してから耳に入れるようにした」などの遠慮をさせてはならない。「悪い情報ほど速報」。良い知らせは遅くても問題はないが、悪い知らせは「一刻の遅れは致命傷」にもなりかねない。
悪い報告を上げてきた職員をいたずらにしかってはならない。悪い報告には、深夜であっても「(報告してくれて)ありがとう」という対応でなければならない。そうでなれば速やかな報告は途切れる。
4 住民と共に(情報公開)
  住民に対する適時適切な情報提供への配意は肝要だ。昨今の自治体への最も多い苦情は情報公開の少ないこと(あるいは遅いこと)だ。行政は常に住民との情報の共有に努め、住民と共に対応するという姿勢が肝要だ。
  20年ほど前までの原則は異なっていた。住民を不必要な不安に陥れてはならないという配意が重要視されていた。例えば、ハザードマップ。100年に1度の大雨で水没する危険性のある地域に関する情報はいたずらに動揺を招くからという理由で公表しないのが通例だった。「依らしむべし知らしむべからず」行政当局は住民に黙っておき、対応できてから公表するのがいいとされていた。
   現在は、行政のできることできないことを隠さず公表して、住民の協力を得て、最善の対応をすることが求められている。行政は説明責任を負っている。いたずらに不安を煽らない留意は欠かせないが、悪い情報を住民から隠すことは許されない。
自治体の現状は、財政状況の悪化ということもあって、できないことも少なくない。費用対効果にも留意しなければならない。
5 情報感覚を磨こう
  情報感覚を磨くよう努めることが肝要だ。危機に際しては可能ならその兆候を掴むことが決定的になる。情報感覚が命になるゆえんだ。危機にあって、情報は断片的な場合が多い。その断片情報から、事態の危険性を予見できるか否か。挙げて鋭い情報感覚によっている。
  例えば、阪神大震災では、周辺地域の情報がある程度分かったが、神戸の中心部での震度7の激震での被害状況が分かるまでかなりの時間がかかった。実態は報告できないほどの被害の大きさだった。情報がないということは最も危ない兆候になり得る。
  情報感覚は、日常的な情報へ意識することから始まるものと思う。
6 早期対応
  危機対応は時間の勝負だ。早期対応が生死を分ける。どうしたら一刻も早い対応が可能か。それぞれの自治体の具体的状況に応じた対応が肝要。
  自治体職員はルーティーン業務への対応は習熟しているが、危機への対応は総じて苦手だ。どうしたら首長まで早く報告が上がるか。それには普段から早目の報告を重視する姿勢が欠かせない。かつ、報告部局に対応策の具申を求める習慣をつけることも有効だ。常に日常の習慣の延長上に危機発生時の対応があるのだ。 
7 大きく構えて小さく収める
  危機に際しての対応は、原則的に危機をより重大に捉え大きく対応する心得が肝要だ。特に上位者は事態を楽観視しないで欲しい。上位者が楽観していると、下位の職員は真剣な対応を取らない。上位者は、より「大変だ」との対応をすることでちょうどいい。
  思ったよりも事態が軽いということが分かって、体制を縮小させる。兵力の逐次増強は危機管理にあっては最大の愚策という教訓を忘れてはならない。圧倒的な兵力で対応し、相手の戦力を確認してから、縮小するのが危機管理の常道。
8 残心
「残心」とは剣道の用語で、例えば「面」と1本打ち込んで終わりではなく、くるりと身を翻して、相手に正対し、相手の反撃に備える構えを取ることを意味する。相手が思わぬ反撃してくるかも知れぬから、打ち込んだからと言って気を抜いて油断してはならないという教え。 私は、危機管理万般に通じる大事な心得だと思う。悪いことは、時に重なって発生することもあることへの備えである。
 私の経験からも、例えば1995年1月17日の阪神淡路大震災、3月20日のオウムのサリン事件、3月30日の国松警察庁長官狙撃事件と2箇月ほどの間に次から次へと異常な事態が発生した。サリンから長官狙撃までわずかに10日。重大な危機管理事案がこんなに短期間に続いて発生した。一難去ってまた一難。それが危機の特性でもある。
 人間、一山超えるとホッとしたいもの。しかし、危機管理の立場からはそういう時に第2撃に備えることが肝要なのだ。トップの心得として留意しておいてもらいたい。
9 訓練
  様々な想定に基づき、可能な限りの訓練を実施すべきだ。頭でなく体で覚えることが有意義であり重要だ。いざという場合の各自の任務が実感されるだけでも効果がある。訓練してみれば、普段から何を備えておくべきかが想像できる。たとえ、図上訓練であっても実施すると効果がある。
  危機対応は否日常的な事態への対応であるだけに誰しも自信を持ちにくい。訓練をすることで危機対応を感じることが欠かせない。
10 代行者の指定
  危機管理では担当者が不在の場合の代行者の指定が重要な意味を持つ。軍隊では戦場で指揮官が倒れたら誰が指揮権を行使するか予め指定されている。危機管理対応では当然の要諦。担当者が緊急時に出勤できないことを想定して、代行者、その代行者を指定しておくべきだ。
  かつ、代行者による訓練を実施するなど、予め、いつでも対応できるように備えておく必要がある。
 

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プロフィール

大貫啓行(おおぬきひろゆき)

Author:大貫啓行(おおぬきひろゆき)
麗澤大学経済学部・大学院教授(2014年4月から名誉教授)、(公)モラロジー研究所教授。元警視監。
東京大学法学部卒業。
1967年警察庁入庁。内閣官房、外務省、防衛庁への出向も経験、中国情報分析を中心とした内外情報畑一筋30年のエキスパート。
お問い合わせはkikikanri110@gmail.comまで。

在中国一等書記官(文化大革命直後の政治情報収集)、警視庁外事1課長(ソ連スパイ・レフチェンコ事件を指揮)、内閣情報調査室国際部(中国・ソ連分析キャップ)、防衛庁調査1課長(ソ連による大韓航空機撃墜事件の事後対応)、秋田県警察本部長、長崎県警察本部長(雲仙普賢岳噴火災害警備を指揮)、警察大学校特別捜査幹部研修所長、警察庁国際部長(初代国際部長として、阪神淡路大震災、オウムサリン事件、国松警察庁長官狙撃事件等の危機管理に携わる)、中国管区警察局長等を歴任し、1996年より麗澤大学教授・2014年より同大学名誉教授。

川崎市顧問・危機管理アドバイザー(2004年~2014年)をはじめ、多くの自治体で各種の顧問・委員等も務めている。
【著作等】
(著書)「変革~日本の対外姿勢と危機管理」(広池学園事業部)
「現代中国の群像」「暮らしの法学~安全を考える社会システム」
「国際紛争と日本の選択」『暮らしの行政~私と公の共生システム」
「説得力の養成」(以上麗澤大学出版)
「中国はどこに向かう」(白金出版)ほか
(論文)「災害に関する危機管理」「雲仙普賢岳噴火災害警備考」
「在ペルー大使公邸占拠事件の考察」「公務員における意識改革の現状」
「中国~国家・社会変革方向の考察」(以上麗澤大学紀要)など

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