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警察官諸君へ與ふ(あとふ) 内務省警保局

なぜ諸君は今回の職務を完全に遂行しなければならないか?
原子爆弾とソ兵の満州進駐とが重なって来た時に日本の進むべき途は二つあった。
一つは飽くまで戦争を続行する事
一つは新しき日本の建設に向ふ事
 飽くまで戦ふ情熱を国民は決して失って終ったのではないけれども、総合戦力の実際から見て、其の途に進む時日本は永遠に起つ能はざる處まで」いかねばならぬ。八月十五日ラジオの前に尊き御聲を拝して全国民が泣き崩れた時、新しき日本の進む途が決ったのである。御聖断は尊厳であり絶対である。御聖慮のお示しになる處のものは新しき日本の建設である。此の際徒らに泣き崩れて再起の心の足らぬ者、大御心に背くのである。我々は今後如何にすれば新しき日本が一日も早く再建さるかをのみ思想と行動との基準としなければならないのである。

 今回聯合軍が進駐する事となった。若しこれに関して不慮の事故が起ったならばその結果は何うなるか。
一、 報復の強力手段に出るは勿論
二、 駐屯軍の駐屯期間は予定以上に永引くであらうし
三、 国内治安の維持に容喙して来るであらうし
四、 それ等の事が動機となって政治、経済の不安や混乱が導かれないとは限らない。
かく考えて行くならば諸君は決して進駐軍自体の為めに真剣にその職務を果たすのではなくて同胞を一日も早く再起せしめるものへの障害を除去するために、今諸君はつらいつとめの先頭に立ったのである。自分は諸君の胸中を思う時「自信を以って敢て諸君の職務責を果せ!」と叫ばざるを得ないのである。平和の時代に於てすら外国人の言動は、謙虚なる日本人の眼には横暴に見え傲慢に見えるのが常であった。いわんや今回の進駐に於ては尚更甚だしいであらう事は容易に想像されるのである。だが我々は今それ等の事どもに心を奪われて居る時ではない。進駐軍の言葉や態度は聞き流し、受け流して、ただ同胞将来の存立と再起とのためのみ念頭に置いて居らねばならぬ「かくの如き憤慨は自分には堪へられぬ、自分一人が腹を切ればよいではないか」と云ふ様な考えは大きな立場からすれば我儘であり不忠である。又進駐軍に対して警戒することを腹の何處かでひそかに二心の様に思う何物かがあるとすれば、それは新しき日本の建設に余念なかる可き大御心の御垂示に背くものであり二心の様に思うその心こそ実に既に新しき日本の立場から遅れて居る考えである。進駐軍に対する警戒は即ち直ちに新しき日本を建設する為めの進路を開拓し保護する事になる訳である。
従って進駐軍に対する不当なる行動に対してはそれが如何なる者であらうとも直ちに厳格に取締る可きでありその間些少の緩みさへあってはならぬ筈である。同胞の気持ちを察しつつ適切厳重に取締を行って進駐軍と民衆との間に何等の事故なからしめて行く事は、やがて明るく幸福な日本を建設する基礎なのである。

 眼を大局にそそぎ今の警察の役割の重大な事に十分な自覚と自信を持ち、しっかりと腹を据ゑて感情に駆られず淡々として、巧みに職務を処理して行かるる様、日本の明るい将来の為めに切望して止まないのである。
 誰しもが愉快に思はれる仕事は誰しも出来る仕事である。誰しもが愉快に思はれないがしかし実は本当に重要である此の仕事にこそ諸君は男らしき自信を以て臨む可きである。八月十五日マイクの前に御立ち遊ばされた大御心に副ひ奉り明るく新しい日本建設のためにその先頭に立つ諸君の職務の影響と結果とは今やまさしく重且つ大であり諸君の深省と奮起とを望まざるを得ぬ所以である。(字体など最小限の修正を除き原文のまま)

時代を切り拓く主役・警察官を始め全若い世代へのメッセージ
「警察官諸君に與ふ」は、終戦間もなく(故土田国保氏によると昭和20年8月末頃だったのではないかと)全国の警察官に配布されたものだ。全国の警察と進駐軍との摩擦を回避したいという内容からも切迫した状況で急遽作成されたものであることは明らかだ。
こうした文書が配られた終戦の混乱期から、まだ70年も経過していない。それなのにはるかかなた多くの人の記憶からも消え失せている。私たち日本人の健忘症は相当のものだ。
この文章は当然のようにガリ版刷りのもので、私は土田国保氏からいただいた。個人的には託されたものと受け止めている。多くの方はご存知かと思うが、土田氏は警視総監・防大校長を歴任した内務省・警察庁の大先輩だ。私は警察庁入庁以来ずっとお宅に出入りさせていただいた。
私が長崎県警本部長をしていた折、土田ご夫妻に御来遊いただいたことがある。この文書はその折にいただいたものだ。その後、まもなく体調を崩されてたことを風の便りに耳にした。私はしばしば近況をご報告していた。ということで「現代中国の群像」を出版した際もに当然のように贈呈させていただいた。その際の返信には「不甲斐ない日々を送っている」といった趣旨が書かれていた。小著を読んでいただき細かい点にまで感想をいただき、期待しているとも書かれていた。それから日をおかず亡くなられた。
現在、私は大学で若い学生に先の戦争を考えさせるべく様々な方法を試みている。この文書も有力な教材の一つだ。読ませて感想を書かせている。多磨霊園に連れ出して、山本五十六、山下奉文、高橋是清などの墓前でそれぞれの生きた時代を解説している。なお、浅沼稲次郎、リヒアルト・ゾルゲ、徳田球一などのお墓も多磨霊園にある。
若い世代に時代を切り開く気概を抱かせたいと念じている。どの時代もそれぞれの課題があり、若い世代の打破力を原動力として突破してきている。今日の閉塞感に満ちた時代も若い世代に期待している次第だ。そうした際に、わずか70年まえの敗戦の時に立ち返るのは有益ではないか。「警察官諸君に與ふ」は、若い警察官に留まらず、広く若い世代に読んでいただきたいものだ。
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プロフィール

大貫啓行(おおぬきひろゆき)

Author:大貫啓行(おおぬきひろゆき)
麗澤大学経済学部・大学院教授(2014年4月から名誉教授)、(公)モラロジー研究所教授。元警視監。
東京大学法学部卒業。
1967年警察庁入庁。内閣官房、外務省、防衛庁への出向も経験、中国情報分析を中心とした内外情報畑一筋30年のエキスパート。
お問い合わせはkikikanri110@gmail.comまで。

在中国一等書記官(文化大革命直後の政治情報収集)、警視庁外事1課長(ソ連スパイ・レフチェンコ事件を指揮)、内閣情報調査室国際部(中国・ソ連分析キャップ)、防衛庁調査1課長(ソ連による大韓航空機撃墜事件の事後対応)、秋田県警察本部長、長崎県警察本部長(雲仙普賢岳噴火災害警備を指揮)、警察大学校特別捜査幹部研修所長、警察庁国際部長(初代国際部長として、阪神淡路大震災、オウムサリン事件、国松警察庁長官狙撃事件等の危機管理に携わる)、中国管区警察局長等を歴任し、1996年より麗澤大学教授・2014年より同大学名誉教授。

川崎市顧問・危機管理アドバイザー(2004年~2014年)をはじめ、多くの自治体で各種の顧問・委員等も務めている。
【著作等】
(著書)「変革~日本の対外姿勢と危機管理」(広池学園事業部)
「現代中国の群像」「暮らしの法学~安全を考える社会システム」
「国際紛争と日本の選択」『暮らしの行政~私と公の共生システム」
「説得力の養成」(以上麗澤大学出版)
「中国はどこに向かう」(白金出版)ほか
(論文)「災害に関する危機管理」「雲仙普賢岳噴火災害警備考」
「在ペルー大使公邸占拠事件の考察」「公務員における意識改革の現状」
「中国~国家・社会変革方向の考察」(以上麗澤大学紀要)など

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