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市町村における防災力を向上させるために~具体的な事例検討~

雑誌投稿原稿(2011年)        

 始めに
  地方自治体で防災力を養成・向上させるための具体的な施策を提案・検討してみたい。危機担当職員も限られ、予算の制約もある中でいずれの自治体も危機への備えの必要性は感じつつもなかなか具体的な施策となると苦慮しているというのが実態。そうした中で、どこでも容易に実行可能なものという前提での論述としたい。各自治体はそれぞれの具体的な状況を踏まえ肉付けを工夫されたい。
1 基本事項
  先ずは総論的に心得るべき点から始めたい。
(1)「自立した住民」を養成する(「情報公開」という原点の確認)
  従来の「よらしむべし、知らしむべからず」という従前の官サイドの発想を捨てることから始めなければならない。大部分の自治体職員にあっては、既に意識は十分切り替わっているであろうが、潜在意識の部分で人間なかなか切り替わっていない部分があることに留意して欲しい。
防災において、例えば「ハザードマップ」のような住民の住居に関する危険情報も公開することは、住民をいたずらに不安に落としえるだけだとして、役所の中に留めおくというのが、つい20年ほど前までの感覚だった。有効な対策が打てて安心してくださいという形でなければ行政は情報を抱え込みがちだった。現在は、そうした古い感覚はなくなっていると思うが、どこかで引きずっている可能性がある。実は住民の側に行政への依存意識が強く残っている。例えば、危機発生時に対するあれこれ行政への注文が後を絶たない。そうした住民を前に自治体職員サイドにそうした住民の意識に逆らえないという意識が強く残っている。例えば、予算も職員も不足しているのに「最善を尽くします」などと言ってしまう。
現在は、情報公開が原則、取り分け危険情報は率先して公開することが原則だ。官ができることは限られている。「自助・共助・公助」それぞれが合い協力して危機に立ち向かうというのでなければならない。そのためには情報の共有、取り分け危険情報の共有が大前提となる。
自分と自分の愛する家族などの命は自分で守ることを繰り返し強調したい。役所としては、責任逃れのようにも聞こえるため、なかなか言いにくいかもしれない。しかし、阪神淡路大震災の教訓として、役所ができることは限られているという現実がある。家屋や家具の下敷きになって身動きならなくなったら、家族や近所の助けに頼らざるを得ないという実態は強調してもし過ぎることはない。
(2)企業・NPO・町内会など「広範な協力体制」の構築(「コーディネイト役」に徹する)
  価値観が多様化している今日、さまざまな形の重層的な協力体制の構築を目指すべきだ。役所はそのコーディネイト役に徹する。しかもそれぞれの組織が自立的に行動できるようにしたい。それぞれが判断して、役所と共働するというのが理想だ。
  現在、私は川崎市非常勤顧問(危機管理アドバイザー)を引き受けている。現役の市職員ではなかなか言いにくいことを言う役目を引き受けている(どこでも市役所に対して補助金が欲しいなどの要望・要求が出勝ち)。こうした中間的な立場の役割を担う人物を設けるのも有効だろう。 
(3)訓練など実際に体を動かして覚えなくては実際の役には立ちにくい(参加者を増やせる訓練とする工夫)
  マンネリになりがちなので、なんとか工夫して、住民の参加数を増やせるようアイディアを出して欲しい。起震車で大震災の揺れを体験し煙の中をハンカチで口を塞いでくぐるという体験はいざという時の役に立つ。
  なお、休みに子供さんと近隣を歩き回ることも地域を立体的に理解する上で有益だ。最近の子供は学校と家、プラスの塾くらいしか行けないという人も少なくない。緊急事態発生時には常日ごろと異なる行動をとらなければならないことも予想される。そうした場合、子供が日ごろから周辺に明るいことは危機管理上のイロハなのだ。頭ではなく体で覚えた部分が危機対応では役立つものだ。
2 メールニュース「防災・気象情報」
  名称はどうであれ、自治体に関連する緊急情報や地心情報、気象警報・注意報、天気予報、光化学スモッグ情報等をメールで配信するもの。災害時に先ず大切なのは、正確な情報を早く知り、適切に判断し行動することです。現在は携帯電話やパソコンで情報が流せるので、これらを有効に活用したい。予め住民に登録してもらいこれらの情報を発信するシステムは有意義だ。
  行政に対する住民の要望事項の上位に早急な情報伝達への要求が挙げられる。しかし、実際には難しい。広報車の音声も届かないところもある。情報は住民自らの入手に努めてもらう時代。そういう意識になってもらうための日常的な広報努力を願いたい(この部分に関する住民の自治体への依存意識は思いの外根強いものがある)。
また、地上デジタル放送、コミュニティFMラジオ、防災テレホンサービスなど地域の災害情報入手方法の広報には一層力を入れたい。
  * 川崎市役所HPヘッド参照(*)
3 防災協力事業所登録制度
  災害時の被害軽減につなげるため、いざという時に協力し合うため、地域の事業所に参加協力をしてもらう。災害時に事業所がどんな協力が可能かを検討し、登録・表示してもらう(市民への広報・表示の普及努力は欠かせない)。
例えば、自治体は広報媒体を使用してあるいはHPなどに掲載するなどし広報する。事業所にとっては平常時における住民に対するCSR活動広報となるように工夫したい。いざという時に住民と事業所の協力が可能になるような体制作りのきっかけとなることを目指している。商店街の活性化などの施策とタイアップして地道に努力したい。地元の大学などへの働きかけも有益だ。
  事業所の持つ組織力、専門的な技術・資機材は、災害時の地域にとって大きな力になる。講堂などを臨時の避難場所に提供してもらえれば近所住民は安心だ。運動場なども臨時の避難場所としては有効だ。これまでも尼崎列車事故、東海豪雨、阪神・淡路大震災などの事故や災害で、事業所の活動が、地域に大いに貢献した。
  ①尼崎市列車事故(平成17年4月)
    周辺事業所の従業員等がいち早く現場に入り、順次到着する消防・警察と協力し、大破した車両から被災者の救出、安全な場所までの誘導、応急手当、病院への搬送などを行った。
  ②東海豪雨(平成12年9月)
    スーパーマーケットの協力で、屋上駐車場に地域住民の車を避難させたことにより、車の冠水が防げた。
  ③阪神・淡路大震災(平成7年1月)
    事業所の自衛消防隊員が地域の消火活動に出動し、住民と協力して火災の拡大を食い止めたほか、事業所の体育館を避難場所に提供した。
4 企業・事業所に向けた防災対策ガイドブックの作成など
  多様な防災取組が求められるが、特に企業での取組に期待したい。組織力がある企業での従業員の防災意識の高揚、業務継続計画の作成が有効だ。企業継続への事業所や工場などの耐震化から始まり、従業員用備蓄から周辺住民への支援などCSR活動へとの広がりが期待できる。
   自治体はガイドブック作成から始まり各種機会を駆使して企業・事業所・業界団体などの協力を求めるべきだ。自治体はHPなどを業界別に分類するなど活用しやすく工夫して企業等の防災取組を紹介・支援すると同時に社会的なインフラ化するよう努めたい。
   静岡県、東京都千代田区(**)など先進的な自治体の事例を参考にそれぞれの工夫を加味した取組を競ってもらいたい。
5 市民の協力促進
  例えば、緊急時の飲料に提供される井戸をお持ちの市民にはその旨ご近所に表示してもらうといった取組は是非促進すべきだ。できれば共通のマークなどを作成したい。企業の緊急時の協力可能な分野を表示するのと同趣旨だ。薄れがちなコミュニティの再構築のきっかけにもなろう。
  市民への広報について。様々な広報手段があるが、地域FM放送などは緊急時のローカル情報入手の有力な手段になる。自治体は普段から危機関連情報入手手段としてFM放送の内容充実に努力すべきだ。例えば、川崎市では地域情報を扱うFM川崎で、市民の危機管理への意識向上・話題提供を目指す「わが家の危機管理」(毎週月曜日朝夕5分間)、主に防犯情報を扱う「地域安全かわら版」(毎週月~金曜日朝夕15分)といった放送を行っている。  
6 自治体内部での検討事項
自治体内部で防災への取組として考えるべきことは少なくない。それぞれの具体的条件に応じて検討してもらいたい。以下、その際の主なものを参考までに列記したい。
(1)宿直態勢、緊急時の参集体制の時系列に基づく検討・・・自転車、バイク使用を前提にして考えること。   
(2)所掌事務として防災と防犯を一体的に考える・・・わが国では組織は縦割りになりがちだ。警察と消防のそれぞれが町内会などに別途の組織を作っている。自治体はその一体的な運用に努めたい。
自治体の組織でも交通安全、防犯、防災などが別の組織になっていないか。
(3)職員の緊急時への備えという意識を促すための工夫・・・日常教務の忙しさに紛れ、緊急時への意識は薄れがちだ。内部昇任試験での出題なども駆使して関心を高めたい。
終わりに 
  本稿では自治体として人員と金のかからない施策を取り上げた。自治体は住民や企業・団体の協力を促すコーディネートとしての役割に立つという発想で可能になる活動は少なくない。

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プロフィール

大貫啓行(おおぬきひろゆき)

Author:大貫啓行(おおぬきひろゆき)
麗澤大学経済学部・大学院教授(2014年4月から名誉教授)、(公)モラロジー研究所教授。元警視監。
東京大学法学部卒業。
1967年警察庁入庁。内閣官房、外務省、防衛庁への出向も経験、中国情報分析を中心とした内外情報畑一筋30年のエキスパート。
お問い合わせはkikikanri110@gmail.comまで。

在中国一等書記官(文化大革命直後の政治情報収集)、警視庁外事1課長(ソ連スパイ・レフチェンコ事件を指揮)、内閣情報調査室国際部(中国・ソ連分析キャップ)、防衛庁調査1課長(ソ連による大韓航空機撃墜事件の事後対応)、秋田県警察本部長、長崎県警察本部長(雲仙普賢岳噴火災害警備を指揮)、警察大学校特別捜査幹部研修所長、警察庁国際部長(初代国際部長として、阪神淡路大震災、オウムサリン事件、国松警察庁長官狙撃事件等の危機管理に携わる)、中国管区警察局長等を歴任し、1996年より麗澤大学教授・2014年より同大学名誉教授。

川崎市顧問・危機管理アドバイザー(2004年~2014年)をはじめ、多くの自治体で各種の顧問・委員等も務めている。
【著作等】
(著書)「変革~日本の対外姿勢と危機管理」(広池学園事業部)
「現代中国の群像」「暮らしの法学~安全を考える社会システム」
「国際紛争と日本の選択」『暮らしの行政~私と公の共生システム」
「説得力の養成」(以上麗澤大学出版)
「中国はどこに向かう」(白金出版)ほか
(論文)「災害に関する危機管理」「雲仙普賢岳噴火災害警備考」
「在ペルー大使公邸占拠事件の考察」「公務員における意識改革の現状」
「中国~国家・社会変革方向の考察」(以上麗澤大学紀要)など

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